松崎 剛士
「レーザ光を用いた拡張現実感による作業支援環境の構築」

 個人の嗜好の多様化と嗜好の急速な変化により、多品種少量生産へのニーズが高まっている。
しかし多品種少量生産は、
(i)生産品目が多いため、品目ごとに作成する作業情報の作成/登録のコストが絶対的に高い、

(ii)多くの品目に対応するため多様な作業ができる高価な作業機器を導入する必要がある、
(iii)生産量が少ないため(i)、(ii)のコストが回収しにくい、
などの理由により生産の自動化が困難である。
 そのため手作業で多品種少量生産を行っている生産現場が多いが、手作業にはヒューマンエラーによる歩溜まりの低下や、低い生産性、作業教育の必要性という問題がある。

 効率よく手作業による生産を行うためには急速に発展する情報技術を用いて手作業を支援し、ヒューマンエラーの減少と生産性の向上、作業教育の負担軽減を図る作業支援環境を作成し、作業現場に導入する事が考えられる。
 適切な情報提示により作業教育を行う必要が無くなり、熟練作業員のノウハウを未熟練作業員が利用して高度で効率のよい生産を行い、ヒューマンエラーを事前に防止あるいは事後に警告するような仕組みを作成すれば、手作業による組み立て作業は大きく発展を見せることになるだろう。
 また、手作業は高齢者や障害者の社会参加、雇用の促進等に繋がるとしてその社会的意義を増しており、これらの観点からも手作業の作業支援は重要なものと考える。
 以上の背景から本研究では、作業支援環境を用いた手作業による取り付け作業の生産性向上を図る幾つかの方法論を提案し、実際に作業支援環境を試作して各方法論の有効性を評価することを目的とした。

 本研究で作成する作業支援環境は、回路基板への電子部品の取り付け作業を具体的な対象とする。
 作業支援環境は、
(a)新規作業員に対して行う作業教育の負荷を軽減し、
(b)日本語を理解しない作業員でも利用でき、
(c)作業支援環境導入時のコスト負担が少ないこと
を目標として作成した。
 その目標に従い作業支援環境の要求仕様は、作業員に対し作業状況に応じて部品取り付けに関する情報提示を行い、作業指示情報は言語によらず直観的に理解しやすい図形や記号を用いたものとし、既存の生産ラインに改造を加える必要も生産ラインを長期間に渡って止める必要もなく作業支援環境を導入でき、さらに作業支援環境自体も比較的安価な機材で構成できるものとした。
 この要求仕様に従って幾つかの作業支援の方法を提案し、それらを実現することのできる作業支援環境を作成して予備実験を行い、提案した各種の作業支援方法の有効性を評価した。
 そして、その評価結果に基づいて、
(1)ビデオカメラを用いて製品組み立て作業の状況を認識し、
(2)テレビモニタを用いて取り付け部品の種類と取り付け方法を提示し、
(3)レーザ光によって部品取り付け位置を基板に直接投影すること
を特徴とする作業支援環境を試作した。
 そして、試作した作業支援環境を用いて実際の生産現場での被験者実験を行い、その有効性を評価するとともに作業支援環境に用いる要素技術の改良点を抽出し、今後の展望として新たな情報提示手法を提案した。

 

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論文はこちら→ matsuzaki.pdf


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