Abstract


 近年、「安全文化」もしくは「安全風土」という概念が、原子力関連の組織においてクローズアップされている。これらの概念は、安全性の達成・維持には、個々人だけではなく組織全体の規範や取り組みが重要であるという問題意識から発展してきた。しかしながら、安全文化を集合体の活動ととらえるならば、原子力とかんれんする産業や一般社会をも、原子力を取り巻く集合体として検討する必要があるだろう。ただし、異なる集合体では、原子力に対する認識が複雑に異なり、同じ土俵で議論することは簡単ではない。社会全体で原子力の安全文化醸成を考えるためには、まずそれぞれの集合体の原子力に対する認識構造を明らかにすることが必要である。  本稿では、エンゲルとロームによって提唱された活動理論の立場から、原子力をとりまくさまざまな集合体のリスク認識構造を明らかにし、原子力の安全文化醸成のためのシステム構築について模索する。まず第1節では、安全文化に関する従来の研究を概観する。続く第2節では、活動理論によって「安全文化」概念を捉え直す。第3節では、原子力産業関係者、一般社会の人々が、それぞれ、原子力に対してどのようなリスク認識を抱いているかを、アンケート調査の結果のもとに類型化する。最後に、第4節では、原子力発電所のリスクや不満を肌で感じている現場作業員の意識について検討する。特に、どのような管理・監督者のリーダーシップのもとで、現場作業員のリスクや不満が軽減されるかについての調査結果に基づき、安全文化醸成のためのシステム構築へ向けた考察を行う。

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