Abstract


オンラインコミュニティの利用は、様々な場面における人の行動を社会的に望ましい方向に変 容させる手法として有望である。オンラインコミュニティの参加者は、その内部でのコミュニケー ションを通じて、情報交換や、集団規範の力等によって行動を変容させることができるとされる。 また、特に、こうした活動をオンラインで行うことで、情報の自動処理や提示方法の工夫によっ て対面では困難な様々な形式のコミュニケーションが実現でき、これをドロップアウト対策等に 利用できるというメリットがある。しかし、現時点ではオンラインコミュニティによる行動変容 の過程やそれに寄与する要因、そして行動変容に有効なオンラインコミュニティの要件が明らか になっておらず、そのため、参加者や促進対象の行動、それらを取り巻く状況において行動変容 に有効なオンラインコミュニティを設計するための方法論が確立されていない。また、既存の行 動変容のためのオンラインコミュニティでは活動から参加者がドロップアウトしてしまう、行動 変容に効果のないコミュニティの活動になってしまう等の問題が発生しており、このような事態 を避けて参加者自身がオンラインコミュニティを設計し運営してゆくのは困難である。 本研究の目的は、(1) コミュニケーション内容とつながりの強さという2 つの軸に着目して行動 変容のためのオンラインコミュニティを設計・実践し、(2) その結果について、特につながりやコ ミュニケーションの参加者の行動への影響について分析することである。ここから得られる知見 が行動変容のためのオンラインコミュニティ設計の方法論の確立に寄与し、例えば家庭における 省エネルギー行動の促進等、エネルギー・環境問題の対策にも応用できることが期待される。 本研究ではまず、行動変容の段階と社会的要請レベルという2 つの軸を用いて、与えられた参 加者・行動・状況のタイプを判別する。行動変容の段階と社会的推奨レベルは行動変容に必要な 介入の種類を規定する支配的な要因であり、これらを考慮することで、様々な参加者・行動・状況 の組み合わせにおいて、オンラインコミュニティが実現すべき介入の種類を導出できると考えた。 また、それぞれの参加者・行動・状況のタイプに応じて、コミュニティ参加者間のつながりの強 さ、及びコミュニティの活動におけるコミュニケーションの内容を適切に選ぶことでオンライン コミュニティを導出する。コミュニケーションの内容とつながりの強さは、参加者がコミュニティ から受ける影響を規定する主要な要素であり、これらの要素によって、様々な参加者・行動・状 況の組み合わせにおいて効果的にコミュニティの活動への参加を促し行動変容に必要な介入を実 現することができると考えた。最後に、適切な行動指針に従ってコミュニティ活動を活性化する 特別な参加者である誘発者の導入や、情報システムの機能等の具体化要素によってコミュニケー ション内容やつながりの強さを具体化する。 この方針に従って、原子力発電所におけるヒヤリハット活動促進のための「ヒヤリハット共有 コミュニティ」、家庭内環境配慮行動促進のための「エコ部」および「あしあとコミュニケーショ ン場」という3 つの行動変容のためのオンラインコミュニティを設計した。そして、これらのコ ミュニティを実際の現場で実践し、その結果について、特につながりやコミュニケーションの参 加者の行動への影響について分析した。その結果、それぞれ多くの参加者の行動変容を促すこと ができ、またそれぞれのオンランコミュニティによる行動変容に影響する特徴的な事例や要因の 具体例を示すことができた。例えば、誘発者が率先して行動した場合は多くの場合参加者間のつ ながり形成が促され、参加者に活動参加を促す制度を設定することが参加を促進させた。また、密なつながりのコミュニティでは「ご安全に」等の参加を活発にするコミュニケーションパター ンが見出された。さらに、これらの実践の結果を基に、より確実に行動変容を引き起こすコミュ ニティを設計できるように、オンラインコミュニティの要素のそれぞれの概念や具体化方法に修 正を加えた。 –

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