Abstract


 原子力発電所のようなセーフティークリティカルな分野における安全推進活動として有効なもののひとつに、参加者がヒヤリハットの事例に関して話し合う「ヒヤリハット活動」がある。この活動は継続的に行われる必要があるが、わざわざ参加者が集まって時間を設けて対面で行うと、継続的に行うには参加者の負担が大きい。しかし、電子掲示板によるCMC(Computer Mediated Communication、コンピュータを介したコミュニケーション) を使用すると、参加者がそれぞれの都合のよい時間に、自分の机の前からヒヤリハット活動に参加できる。しかし、ある電力会社では、CMC を用いたヒヤリハット活動があるものの、持続していないという現状がある。そこで、本研究は、CMC によるヒヤリハット活動を持続させる手法を提案することを目的とする。 さて、既存のCMC による活動の持続の研究には、(1) 参加者個人が活動参加を持続するようにすること、(2) 相互行為を適切にコントロールして活動を持続させることの2 つのアプローチがあるが、既存の研究には2 つを同時に考えるアプローチの研究は少ない。これは、例えば、教育現場では参加者個人が参加を持続することは問題にならないなど、それぞれの研究の分野の特徴によるものである。しかし、本研究の対象であるヒヤリハット活動は、持続のために2 つのアプローチ両方が必要であるという特徴がある。そこで、本研究では、この2 つの視点を考慮してヒヤリハット活動の停滞を分析し、4 つの問題を抽出して、その問題を解決するための手法を提案した。この手法は、ヒヤリハット共有システムというソフトウェアの機能、および積極的参加者というサクラのような役割の参加者の行動によって実現される。 そして、提案手法を原子力発電所の保修作業の現場監督6 グループを参加者として実践した。その結果、一部の手法は、モチベーションの喚起によって参加者個人の活動参加を持続させ、1 つの問題を解決できた。また、一部のグループでは、積極的参加者の行動によって相互行為を持続させ、もう1 つの問題を解決することができた。しかし、のこり2 つの問題については、手法改善に向けた知見は得られたが、有効性が明確に確認できた手法はなかった。結論としては、提案手法はヒヤリハット活動持続を妨げる問題の解決に部分的に有効であった。今後は、目的達成に向けて、のこり2 つの問題の有効な解決策を見つけ、その解決を図りたい。

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